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2007.09.06 (Thu)

【私は、つくね】 私は、”いいもの”の誘惑に勝てない

第十三話 私は、”いいもの”への誘惑には勝てない

ばっちゃんが私に教えたものの一つに、挨拶の仕方がある。

「?!」

みなさんが”?!”と思う前に、
犬の私が何で挨拶を教わるのよと、私自身が”?!”だった。


おとんやおかんが、私を甘やかして育てたため、
他の犬が出来て私に出来ない躾が多いことは既に何度か話をした。

世間では、年寄りが孫の躾や教育方針に口をだすのは
家庭内騒動の元だと言うことぐらいは、
ばっちゃんはよく知っているはずだ。

とかく、一般的に年寄は、躾にうるさい。
やれ、部屋が片付いていない、掃除をしろ、帰りが遅い・・・。

でも我が家のばっちゃんは、いたって静かなものだ。
おかんがよく出来た娘なのか、ばっちゃんに注意されることはほとんどない。
その上、ばっちゃんとおとんも仲が良く、
我が家では、ばっちゃんの小言なんか聞いたことがない。

私が小言の代わりによく聞くのは、
”歌姫”になりきっているばっちゃんの歌声くらいなものだ。

そんなばっちゃんが、
おとんやおかんでさえ躾けなかった私に、
なぜ挨拶の仕方を教える気になったのだろう。

おかんやおとんが、私に対して余りにも躾をしなかったため
せめて躾けの基本である挨拶だけはと思ったのだろうか。


「最近、世の中がおかしくなったのは、
  親が子供を躾けなくなったからだ」

と、おとんが口癖のように言う。

自分のことを差し置いて、よくそんなことが言えるものだ。

私はおかんから聞いてちゃんと知っている。
おとんは仕事が忙しいといって、
兄ちゃん達をほったらかしにしていたらしい。

私は、お兄ちゃんやちーにいちゃんの子供の頃を知らないが、
今でも、時々おかんがおとんに文句を言う。

「あなたは、子供のことは、いつも私に押し付けるのだから。
何か言いたいことがあれば、自分で言えばいいじゃないの」

そうだ、その通りだ。
だいたい私が躾けもされず甘えん坊になったのはおとんのせいだ。
おとんが私を猫可愛がり(犬なのに)しすぎたのだ。

「あなたには子供は育てられません。子供達を駄目にするのだから。
  つくねだってそうでしょう」

と、おかんが嘆くことしばしばだ。
最後の私のことは置いておいて、私も本当にその通りだと思う。

そんな、おとんが他人のことをとやかく言えるわけがないのだ。

「子供は、親の背中を見て育つものだ。
 おれは、子供には反面教師となっているのだ」

と、おとんが減らず口をたたく。

おとんが、何と言おうと、二人の兄ちゃん達を見ている限りは、
二人は、おとんよりおかんに対して
絶対的な信頼を抱いていることは確かだ。

おとんが大好きな私としては、おとんの味方をしたいのだが、
おとんとおかんが言い合っている場合、おかんに歩があることが多い。

おかんはおとんと違って、
些細なことにごちゃごちゃ言わない。
人の悪口を言わない。
先を見て行動する。



兄ちゃん達が言ったことがある。

「おとんの代わりにおかんが会社に行っていれば偉くなれたと思うよ」

可哀想なおとん。
でも当っているのだからしょうがない。

おとんが二人の兄ちゃん達の躾けや教育をしなかったといって、
おかんはそれでは済まされなかった。
おかんは、母親としての役割以外に父親の役まで果たして、
それこそ、身体を張って、兄ちゃん達を育てたようだ。

おかんの言うとおり、おとんは私に対しても、
躾なんかはまるで無関心で、ただただ猫可愛がりするだけだ。

おかんも、さすがに兄ちゃん達を育てることに疲れ果てたのか、
私に対しては、トイレの躾けといった基本的なこと以外は
ほとんど躾けをしなかった。

どこの家庭でも、末っ子は甘やかされるようだが、
私も例外ではなかったようだ。


自由放任主義の我が家の家風は、私にはいたって心地よいのに、
ばっちゃんが乗り出したのだ。
やはり、女の子は将来、自分の子供を育てなければならないので、
最低の躾は必要と思ったのだろうか。

あのね、ばっちゃん。
私は確かに7歳で、人間の年ではまだまだ子供だけど、
犬社会においては、もう熟女だし、それに私は結婚する気はないの。
いまさら躾は無駄なんだけどな。

それにね、私って犬でしょう。
人間社会で挨拶は躾けの基本かもしれないけど、
犬の私に挨拶の仕方を教えるのはどうかと思うのだけどな。

確かに私は甘えん坊で躾が身についていませんよ。
しかし、ちゃんと犬としてやることはやっているのだから。

不審な物音がしたり、誰かが玄関のチャイムを鳴らしたりした時などは,
いの一番に吠えて家族に知らせているでしょう。

そんな犬の定番の仕事である番犬の仕事に対し、
ばっちゃんが教えた挨拶は、相容れないものだよ。

だって、そうでしょう。
ばっちゃんが私に教えたたことは、

「はい、つくね。”こんにちわ”だよ」

と、言いながらお辞儀をすることだよ。

番犬が私の唯一の仕事なのに、玄関に見知らぬ人がきても
吠えることも無く、”こんにちわ”とお辞儀をしたらどうなると思う。

お客は、びっくりする事請け合いだけど、
その代り、家の中のものがなくなっていても知らないから。

犬には挨拶より番犬の仕事が優先すると思うけどな。


最初、”こんにちわ”の意味するところが分からない私には、
ばっちゃんが何を私に言っているのか全く理解できなかった。


私が、言葉を覚えるのは、家族の行動パターンとセットである
ことは前に話した。

ばっちゃんは、私の前に座ってお辞儀をしながら、
何度も何度も、”こんにちわ”を言う。
ばっちゃんが私に何かを理解させようとしていることは経験上分る。

ばっちゃんが、余りしつこく”こんにちわ”をくりかえっすので、
しようがないから、私もばっちゃんの態度をじっくり観察した。

ばっちゃんは、”こんにちわ”の言葉と同時に必ずお辞儀をする。

このお辞儀をする動作は、単に首を下げるだけのため動きが少なく、
私には、ばっちゃんの行動パターンがなかなか掴みきれなかった。

ばっちゃんも、私がなかなか挨拶の仕方をマスターしないため、
ついに奥の手を使い出した。

「つくね、”いいもの”あげるから、”こんにちわ”をするのよ」

と、飴と鞭方式を使い出したのだ。
但し、ばちゃんは優しいので鞭は一切無いけど。

この”いいもの”に私は弱い。
私の好きなジャーキであったり、チーズだったり、
よだれが出るものばかりだ。

こうなると、ばっちゃんから、”いいもの”をもらうため、
ばっちゃんの動きを少しも見逃すまいと私も真剣になった。
ばっちゃんも、根気よく私に挨拶の仕方を教え続けた。

こうしてようやく、”こんにちわ”が首を下げることだと理解した私は、
ある日、ばっちゃんの言葉と動きに反応した。

「つくね、”こんにちわ”は」

で、コクンと小さく首を下げたのだ。

「ねえ、ねーえ!つくねが”こんにちわ”をしたよ」

ばっちゃんは大喜び!

あとは身体で覚えるための反復練習だ。

時々駄目が入り、

「つくね、ちゃんと”こんにちわ”をしなさい」

と、コクンといったような手抜きのお辞儀ではなく
ちゃんとしたお辞儀を要求される。

そのうち、ばっちゃんは、
ちゃんとした挨拶ができたときにだけしか”いいもの”をくれなくなった。

おとんもおかんも、まさかの私の反応に驚きを隠さない。

「お手や、お代わりがが出来る犬はたくさんいるけど、
 ”こんにちわ”が出来る犬なんて見たことがないでしょう」

ばっちゃんは自分の躾けに大満足だ!

「そうね、テレビの”今日のワン公”に出演できるかな」

と、おかんもまんざらではなさそうだ。

「それに、つくねのこの表情はなんともいえないくらいしおらしいね」

ばっちゃんは、思った以上の成果に一人悦に入っている。



しかし、私は、本当はこの”こんにちわ”の真の意味を理解していない。

玄関にお客さんが来ても、
まだ一度も”こんにちわ”と挨拶をしたことがないのだ。
あいかわらず、見知らぬお客に吠えまくっている。


私には、”こんにちわ”で頭を下げるのは、
ばっちゃんから”いいもの”もらうためのお礼なのだ。

それも知らずか、ばっちゃんは、

「“こんにちは”ができる犬はいない」

と、私の挨拶を疑う様子は微塵もない。

私は、ばっちゃんに悪いと思い続けているが、
“いいもの”への誘惑には勝てない。


いまも、”いいもの”をもらったので、
ちゃんとばっちゃんにお礼をした。



おすまし 友達





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テーマ : エッセイ ジャンル : 小説・文学

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